アメリカがくしゃみをすれば

                  新潟県議会議員杉井 ひとし(三条市)
                                   





 戦後、「アメリカがくしゃみをすれば、日本が風邪を引く」と言われてきた。最近は「中国がくしゃみをすれば、日本がマスクをつける」と言われることもある。いずれにしろ日本は大国の影響を受けやすい。

 トランプ大統領のアメリカでは「反知性主義」が大手を振ってきた。地球温暖化に対する科学者たちの警告を無視して石油・石炭業界の利益を優先、パリ協定から離脱して「どうだ、世界一偉い俺を止められるものなら止めてみろ!」と言わんばかりにふんぞり返っている人物が大統領なのだから、国内に反知性主義がはびこるのも無理はない。

 そういう大統領のときに新型コロナウイルス感染症が流行した。トランプ大統領は「マスクなどいらない」「治療には抗マラリア薬が有効だ」「消毒剤を注射したらどうか」といった非科学的な発言を連発した。結果的に米国内では750万人が感染し、21万人が死亡した。

 5月には医学誌『ランセット』がトランプ政権の感染防止策を厳しく批判、「米国民は大衆の健康に理解のある人物をホワイトハウスに送り込むべきだ」と主張した。同誌は江戸時代の文政6年(1823年)創刊で、世界五大医学雑誌のひとつ。選挙で特定候補を支持するのは200年近い歴史で初めてだ。

 9月には世界で1000万人以上の読者を持つ科学雑誌『サイエンティフィック・アメリカン』も「トランプ大統領の反科学的な姿勢をこれ以上、無視できない」とし、バイデン候補支持を明確にした。同誌も創刊以来、175年間にわたって不偏不党を守ってきたが、今回初めて「トランプではダメ」という姿勢を打ち出した。

 10月には医学界でもっとも古く、もっとも権威のある医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』までが「いまの政治指導者は危険なほど無能」とトランプ政権を厳しく批判。大統領選でトランプ氏に投票しないよう呼び掛けた。これほど学会からダメ出しされた大統領も珍しい。

 同じ時期に日本では、菅義偉首相が日本学術会議の推薦した会員候補六人の任命を、理由も示さないまま拒否した。安保関連法や特定秘密保護法などで政府方針に異を唱えてきた大学教授たちだ。知的権威に懐疑的で、ときに反発するのが反知性主義。米国での反知性主義の広がりを目の当たりにした菅首相は「波に乗り遅れてはならない」とでも思ったのだろうか。

 トランプ大統領は選挙目前に連邦最高裁の判事に保守派の女性を指名した。9人の判事のうち保守派が6人を占めれば、人工妊娠中絶や銃規制など世論を二分する問題をめぐり、最高裁の判断が右傾化するためだ。自身の選挙結果を裁判で争う事態になったときに有利な判断が下されるようにするための布石でもあった。

 日本の最高裁の裁判官は内閣が任命し、天皇が認証する。長官を含む現在の15人の裁判官は、平成26年から令和元年にかけて安倍晋三政権が任命した人たちだ。安倍政権のお眼鏡にかなった裁判官がどういう判断を下すか。一例が先日の正社員と非正規社員の待遇格差をめぐる裁判だ。最高裁は東京高裁や大阪高裁の判断を覆し、非正規社員にボーナスや退職金を支払わないことを「不合理とまでは言えない」とした。米国同様、日本の最高裁も保守化していた。働き方改革関連法が定めた「同一労働同一賃金」はスローガンでしかなかった。どこまでが合理的でどこから不合理な格差なのかは裁判所の判断次第なのだから、経営側は痛くもかゆくもない。

 労働者派遣法などで非正規雇用を増やす一方、雇用側が困るような司法判断を下さないよう最高裁の保守化も進めてきた自民党政権。富裕層が支持するのは当然としても、差別的扱いを受けている非正規労働の若者までがそうした政権を支持している。アメリカのくしゃみで飛沫感染し、高熱にうなされているのだとしたら早く完治してほしいと思う。



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