恭子の日記 ⑮

平和を作る ひとこまの記憶




「お月様と帰る道」

それは少し寒い夜。

 空は濃紺一色。

 田舎の空は低い。

 手を伸ばせばつかめるのではないかというくらい低い空にたくさんの星。月。

 そしてその夕刻には白い煙のような雲も見えた。

 若かった母は、待ち望んだ初孫を嬉しそうに背におぶい、私はそれを支えるようにゆっくり、ゆっくり歩いて帰途についていた。

 母の背を信頼しきって頭をつけていた娘が不意に頭をもたげて言った。

 「どうしておちゅきさま(月)はいつまでも私たちの後をついてくるの?」

 母は笑って言った。

 「田舎の道は暗いからね。

 おばあちゃん達が無事におうちまで帰れるように、明るく照らしてついてきてくれるのよ。」

 すると娘は大きな声で空に向かって叫んだ。

 「おちゅきさま(月)、ありがとう。もうすぐお家に着くから、おちゅきさまもお家に帰りなしゃい。

 暗くなったら、危ないよ。早くお家に帰りなしゃい。」

 いつも娘自身が言われているフレーズだった。

 私たちが娘に言っている何気無いフレーズ。

 だけど娘がお月さまにかけたフレーズの、なんて思いやりに満ちた、優しい響きに聞こえたことか。

 まだ2歳にもならない幼児でも、優しさや思いやりはちゃんと伝わっている。学んでいる。だからこそ、大切に育てなければ。

 小さい時こそ、おざなりにせず、情緒を豊かに育ててあげることが平和を育てること。

 母と私はなんだか幸せな気持ちに満たされて、ニコニコ顔を見合わせながら、うなづいた想いを、今ふと思い出した。

 30年経って私は昔、母がおぶった子のその子(孫)を背におぶってしみじみとした。

 かつて、母におぶわれた娘はおばあちゃんの思いを確かに受けて、愛情豊かに育った。そして今小さな子供の保育と、ご老人の憩いの場を一緒にした施設の仕事についている。

 現代は外に出て働くお母さん達が当たり前になった。

 そして、お年寄りと住む家族も少なくなった。

 若いお母さん達は仕事と子育てに追われ、だんだんと心の教育をじっくり与える余裕がなくなる。

 お年を重ねた方々の知恵と、育て上げた経験は、確かに子育てにとても役に立つ。

 施設の年配者から、子供達は、お手玉、けん玉など日本の伝統の遊び、人としての温かさ、思いやりを学ぶことができる。

 だからこそ、年配者と幼子が一緒に過ごす場所はとても素晴らしい教育の場所になると思える。

 そして、時代が変わったら、考え方も柔軟にして、他のお子さん、お年寄りも互いに暖かく交わることで、強い心、正しい道を教われば、きちんと平和な世の中が作れる気がしている。

横浜市

(画柳会代表) 中田恭子







読者からいただいたメールを載せています。ご覧になってください。
編集部では皆様からいただいたメールには出来るだけお返事を
出すよう心がけています。

ご意見・ご感想はこちらまで!

ページトップヘ